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骨系統疾患の基礎医学研究者としての歩みとプレシジョン・メディシンへの想い

Doctor’s Voice

2024.10.24

骨系統疾患の基礎医学研究者としての歩みとプレシジョン・メディシンへの想い

理化学研究所 生命医科学研究センターの研究者であり、骨系統疾患コンソーシウムの創立者でもある池川志郎先生に、骨系統疾患の臨床医から研究者となられた経緯や研究内容や現在の取り組み、その背景にある想いについてお話を伺いました。

1分でわかる記事のPoint

  • 骨系統疾患研究の第一人者である池川志郎先生は、整形外科医から基礎医学研究者に転身し、骨系統疾患の研究に従事。

  • 35種類の骨系統疾患疾患原因遺伝子とその変異を発見し、遺伝子診断の発展に貢献されています。

  • また「骨系統疾患コンソーシウム」を設立し、年間250件の症例相談の対応や「かずさDNA研究所」が受託している遺伝子検査結果の報告書作成を担当。

  • 骨系統疾患におけるプレシジョン・メディシンを推進されており、E-コンサルを通じて、臨床医の遺伝子診断の活用を支援していきたいと考えておられます。

お話を伺った先生

理化学研究所 生命医科学研究センター ゲノム解析応用研究チーム 客員主幹研究員/骨系統疾患コンソーシウム 創設者

池川 志郎 先生

目次

  • ヒトゲノムプロジェクトを機に臨床医から研究者へ

  • 未来の患者さんを救うための基礎研究の光と影

  • 「骨系統疾患コンソーシウム」で受ける一つ一つの相談の価値

  • Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)を目指して

ヒトゲノムプロジェクトを機に臨床医から研究者へ

ー先生は整形外科の臨床医としてキャリアをスタートさせたと伺っています

大学時代までは、いわゆるスポーツ馬鹿で、ラグビー漬けの毎日を送っていました。チームメンバーが整形外科医にお世話になる機会も多く、馴染みがあったので、スポーツ整形医を志して医師になりました。東京大学整形外科に入局して、研修2年目に医局のローテーションで、静岡県立こども病院の整形外科にて小児の整形外科疾患を診る機会を得、骨系統疾患を担当することになりました。そこで、勉強のために東京大学医学部附属病院に週1回通いながら、静岡で1年間診療を続けました。

静岡の任期が終わった後、都内の病院にローテーションとなり、東京大学医学部附属病院の骨系統疾患専門外来も担当するようになりました。ちょうど専門外来のチーフの先生が留学することになったので、20代後半でいきなりチーフになり、全国からやってくる「超希少遺伝病」の患者さんを診る責任者になってしまいました...(笑)。

ー骨系統疾患の研究者を志したきっかけについて教えてください

あるとき、骨系統疾患専門外来で、ある患者さんのお父さんに、「熊本からわざわざきたんだから責任者の先生を出してください。来るまで待っています」と言われました。若くて貫禄のない私は、「責任者」には見えなかったようです。確かに熊本から1日かけて東京まで来てもらったのにそれに応えられる程の経験はなかったので、返す言葉が見つかりませんでした。また、医者として頼られているのに、それに応える力がない、というのは悔しくて、さらに勉強に励みました。ただ当時は、骨系統疾患の診断は臨床症状やレントゲン像によるパターン認識の時代で、治療も症状に対する対症療法しかできませんでした。

潮目が変わったのは、1980年代後半に「ヒトゲノムプロジェクト」が始まったことです。それまでの臨床は、診断が不確実で適切な治療法も見つかっておらず ”このままではいけない”と思っていました。原因遺伝子を発見し、遺伝子診断により正確に診断し、病態を論理的に解明し、治療法を開発する--骨系統疾患のゲノム解析はまさに自分がやりたかったものだったため、医局を離れて国立がん研究センターの研究生となり、1から研究者の道を進むことを決意しました。

未来の患者さんを救うための基礎研究の光と影

ー東京大学の専門外来のチーフを離職して研究生になるというのはすごい決断ですね。先生のこれまでの研究成果について教えてください

研究チームのメンバーや臨床医などの協力を得ながら、これまでに全35の骨系統疾患の原因遺伝子とその変異を発見しました。つまり、35種類の骨系統疾患で遺伝子診断を可能にしたということです。原因の遺伝子変異がわかったことで治療薬が開発された疾患もあります。適切な治療には、正確な診断が必要。そのためには、遺伝子診断が最もクリアな方法だと考えているので、それが実現できた喜びはとても大きいです。骨系統疾患の国際分類も、これまでのX線像によるものから、原因遺伝子によるものに変わりました。

ーいま注力されている研究はどのような研究ですか

昨年、理研を定年退職し、いまは自分で進めているというよりは、研究をサポートする形で関わっています。

注力しているテーマは、骨系統疾患の中でも骨の量が増える病気「骨硬化症」です。骨を異常に増やすメカニズムがわかれば、骨が増える疾患だけでなく骨が減る疾患にも応用できるからです。実際に、骨硬化症の原因である遺伝子変異を発見し、その変異が骨を異常増殖させていること、さらに、正常なヒトの遺伝子にその変異を起こさせると骨が増加することを突き止めました。これは、骨粗しょう症など骨が減る疾患の治療法になる可能性を示唆します。

このように基礎の遺伝子解析研究から、非常に多くの患者さんに貢献できると考えています。

ーまさに先生の研究が臨床に応用されているのですね。先生のお話を伺っていると、基礎研究の先にいる”患者さん”への想いをとても強く感じます

…そうですね。先ほど話した通り、私は、東京大学や関連病院で臨床医を10年程やった後、研究の道へ進みました。当時担当していた患者さんに研究の道に進むため「医師としてあなたの診療はできなくなる」ことを伝えたんです。すると何人かから「先生は私を捨てるのか」と言われたんです。確かにその通りだなと思いました。

基礎研究とは、目の前にいる患者さんではなく未来の患者さんのために尽くすという側面があります。そういった意味で私はその、目の前にいた患者さん達を見捨てたことに間違いありません。ただ、その患者さんに本来医師としてやるべき貢献がどれだけできたかというと何もできなかったのも事実です。そこには忸怩たる思いがありました。だからこの道に進んだことに悔いはありません。

「骨系統疾患コンソーシウム」で受ける一つ一つの相談の価値

ー先生が立ち上げられた「骨系統疾患コンソーシウム」についても教えてください

ホームページ(http://www.kotsukeito.com/)をみていただけるとより詳しくわかると思うのですが、1990年後半、西村玄先生(放射医)と共に設立しました。現在は、北海道大学遺伝子診療部教授の山田崇弘先生をチーフとして活動しています。骨形成不全症協会の理事長である河村進吾さんにも協力いただいています。

骨に異常がある病気であればなんでも無料で受け付けていて、年間250件ほど相談がきます。X線画像や臨床情報をみて、考えられる候補疾患を示し、鑑別診断、確定診断に必要な検査をアドバイスしたり、必要な診断をつけたり、必要に応じて遺伝子検査を促したりしています。

ー容易ではない取り組みを実施されているのにはどのような想いがありますか

臨床医学は過去の事例を集積して、診断や治療の方針を決めていくということが主流です。でも、希少疾患は、数千万人、数万人にひとりという割合の症例しかないため、事例の量が圧倒的に少ない。その少ない中でも症例をしっかりと集めて、その患者さんたちの共通部分を探していけば、臨床が良くなるだろうという想いがあります。

遺伝子検査の結果を得て、観察をして症例を蓄積しています。一例と二例では全然話が違ってきて、1+1が2以上の価値になるのです。だからこそ一例一例がとても貴重で、どんな相談でも受け付けて、一生懸命情報を集約しようとしています。

ただやはり、メールでのコミュニケーションは途中で途絶えてしまうことも多く、症例の集積に最適なツールではないように感じていました。また、昨今、医療情報のやりとりに適したセキュリティの高い安全な方法を考える必要もあります。そこで目をつけたのがE-コンサルでした。

Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)を目指して

ー「かずさDNA研究所」が受託している遺伝子検査結果の報告書作成を担当されているとお伺いしています

かずさDNA研究所で行っている軟骨無形成症、骨形成不全症などいくつかの骨系統疾患に関連する遺伝子解析の結果の報告書の「コメント」の作成を担当しています。見つかったバリアントの評価、確定診断への方法などを記載しています。ただ、かずさDNA研究所からの報告書に記載されているのは遺伝子解析の結果のみで、その患者さんの臨床症状等の情報は全くわかりません。ですから、遺伝子検査結果の示す事実のみを忠実に述べることしかできません。

例えば、臨床的にはその疾患が強く疑われているのか、検査は患者本人のものなのか、家族歴や保因者の確認のために実施した検査なのかといった情報すらわからないんです。臨床症状や家族歴と合わせながらみると、依頼された遺伝子以外の遺伝子に隠れた変異がある可能性があるのではないかなど、見えてくるものがたくさんあると思っています。

ー様々な活動をされているなかMediiの回答医としてもご活躍いただきありがとうございます。先生がE-コンサルMediiに期待されているしていることを教えてください

遺伝子診断結果と臨床症状を有機的に結びつけることができればいいと思っています。E-コンサルで、患者背景や臨床症状、そしてその患者さんの遺伝子検査結果も添付してご相談いただくことで、検査結果の解釈の幅も広がり、診断の精度が増しますし、次の一手の提案もしやすくなります。さらには、まだ知られていない新たな原因遺伝子を発見するきっかけとなることもあるでしょう。

Mediiのシステムで、最終的には、患者さんはどのような臨床症状から、どのような疾患を疑われ、どのように確定診断され、どんな治療を行い、またその経過はどうなったのかということを知りたいと思っています。それがわかって初めて、”希少疾患を集約化”した意味が生まれると思います。

E-コンサルにご相談いただいている症例はどれも貴重な1例ですから、自分のこれまでの基礎医学の成果を臨床に連結できればと思いますし、逆に臨床起点で新規遺伝子の発見なと基礎医学の発展にもつなげたいと考えています。

ー 最後に、E-コンサルを利用いただく先生方へのメッセージをお願いします

これからの医学は、Precision Medicine(プレシジョン・メディシン)ですよね。正確な診断をして個々に合った治療をする。その診断の有効な手段が遺伝子解析だと思っています。これをもっと臨床で有効に活用いただきたい。そのためには、特に大規模シーケンス解析で見つかったバリアントの解釈など、臨床医には難しいところもあると思います。骨系統疾患全般の遺伝子検査に関するご相談や遺伝子検査結果の解釈など、是非お手伝いできればと思います。


池川先生に相談できるE-コンサル症例相談窓口

<骨系統疾患グループ>

軟骨無形成症、骨形成不全症のほか、骨格の形成・維持に異常をきたす様々な骨系統疾患について、遺伝子検査結果の解釈、鑑別診断、遺伝子診断の要否、診断されている患者さんの治療方針、遺伝カウンセリングなどを匿名かつ無料でお気軽にご相談いただけます。

ご相談はこちらから https://e-consult.medii.jp/NewChatRoom

※ログイン画面が開きます。初めての方は「新規登録はこちら」にお進みください。

<低ホスファターゼ症(HPP) 専門医グループ>

低ホスファターゼ症(HPP)の鑑別診断や治療方針についての症例相談をお引き受けします。難治性疾患実用化研究事業「診療ガイドライン策定を目指した骨系統疾患の診療ネットワークの構築」研究班の先生方へご相談いただけるグループです。

ご相談はこちらから https://e-consult.medii.jp/NewChatRoom

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